ヴェールとは?
ヴェール(被り物)は、人類の歴史において単なる衣服の枠を超え、信仰、身分の証明、抑圧、そして時には権力への抵抗を視覚的に表現する極めて象徴的なモチーフとして機能してきました。
現代ではイスラム圏の印象が強い文化ですが、歴史を遡ればキリスト教の修道服や婚礼の習慣など、西洋圏の文化とも深く結びついています。ここでは、それぞれの地域や文化圏におけるヴェールの役割と、その多様なバリエーションを紐解きます。
イスラム圏のヴェールの文化と種類
女性たちのアイデンティティや抑圧、そして抵抗の象徴として、様々なヴェール(被り物)が存在します。これらは地域や厳格さによって明確に呼び分けられています。
ヒジャブ|Hijab
アラビア語で「隠す」「隔てる」を意味し、本来は女性が身体を隠す習慣や服装のルール全般を指す言葉で、イスラムの衣服規範、およびスカーフの総称です。現在では、主に「顔を出し、頭髪と首を覆うスカーフ」の最も一般的な総称として世界中で使われています。
イラン(ペルシャ文化圏)の被り物
イランや、周辺のイスラム圏では、形状や社会的役割によって以下のように細分化されています。
ルサリ|Rusari
ペルシャ語で頭(ルー)の包み布(サリ)という意味がある。主にイランにおいて、女性が用いる「一般的なスカーフ」を指す現地の言葉。
マグナエ|Maghnaeh
1979年のイラン革命後に定着した女子学生の制服や官公庁のユニフォームとして義務付けられている、機能的な被り物。頭部から肩までが一体化し、顔を出す部分が円筒状に縫製されています。マクナエとも表記される。
イランでは、女の子は小学校に入学した瞬間から、このマグナエを制服として着用します。また、官公庁の職員、銀行員、企業のOL、大学の学生など、「フォーマルな場、組織に属する場」では、このマグナエの着用が法律や社会通念で義務付けられています。
個性を塗りつぶす規律の象徴であり、映画『ペルセポリス』でマルジがこの丈の長さを巡って大人たちと論争するシーンは同作のハイライトです。
チャドル|Chador
ペルシャ語でテントを意味する、イランの伝統的な衣装で、頭から足元まで全身をすっぽりと覆う一枚の大きな布。色は黒が多い。
アラブ諸国のアバヤ(袖がある服の形)とは異なり、袖がなく、前をボタン等では留めずに、手や顎で押さえて固定する一枚の大きな布というイラン特有の形状を持っています。
他の地域で見られるより厳格なスタイル
これらはペルシャ(イラン)の伝統ではなく、サウジアラビアなどのアラブ諸国や、アフガニスタンなど他地域の文化に基づいたものです。
ニカブ|Niqab
頭部を覆うスカーフにフェイスヴェールを組み合わせ、目の周りだけを出したスタイル。アラビア半島の湾岸諸国(サウジアラビアやUAEなど)で多く見られ、イランの都市部では一般的ではありません。通常、身体を隠すアバヤとセットで着用されます。
アバヤ |Abaya
主にアラブ湾岸諸国で見られる、黒くゆったりとした長袖のドレス(外套)。イランのチャドル(袖のない一枚の布)とは異なり、袖を通して着用する「服」の形状をしているのが決定的な違いです。
ブルカ|Burqa
頭のてっぺんから足の先までを完全に覆い、目の部分もレース状のメッシュになっている、最も露出を抑えたスタイル。アフガニスタンなどで多く見られます。外部の視線を完全に遮断するこの布は、社会における女性の透明化というテーマで語られることが多いモチーフです。
